野球選手の「食事」

食事の大切さ
1-1 トレーニングだけでは、体、筋肉は作れない。食事をしっかりとるからトレーニングという刺激を受けて新たな筋肉になり、野球選手の体が作られる。
1-2 選手は、食べる事を「食欲を満たす為だけと考えてはいけない。「食べなきゃ筋肉、野球選手の体は作れない」「野球が上手になるための一番の基本」と考えるべきです。
1-3 選手は、中学、高校で野球をやるのなら、「デカイ体」を作らなければ勝負にならない。「デカイ体」を作る為には、一般の人と同じ食事の摂取量ではととても足りません。
1-4 食事の量を増やす為には、まず、「食べられる体力」をつける事と、毎日少しずつ量を増やして行く事が大切です。
1-5 食べ物の栄養素を知り、どういう物を食べなければいけないのか考え、また、シーズンの時期や練習の目的などによっても食事内容は変わってきます。
1-6 食事の内容によっては、「体のキレ」「集中力」など、様々な要因が係ってくるので、食事の管理も大切なコンディショニングの一環と考えるべきです。
食べられる体力
2-1 「食べられる体力」とは
例えば、練習から家に帰って来てお腹が空いているのに疲れて晩ご飯が食べられない・・・夏場に暑くて食べられない・・・このような経験は皆あると思うが、体が食べ物を受け入れる「力」がないのだ。このような選手には、まさに「食べられる体力」が無いから食べられないのである。しっかり「食べられる体力」があれば、惰力・守備力・走力など「力」の基礎が付き野球する為の実力のひとつにもなる。野球選手の体作りは、まず、「食べられる体力」を付ける事から始めよう。
2-2 「食べられる体力」をどうやってつくるか
ポイントは「貧欲に消化吸収できる体」にする事。そして、トレーニングです。
2-3 「食べられる体力」を作るトレーニング法
2-3-1 よく噛んで食べれば消化を助け、内臓への負担も減り、食べた物を効率よく体のためになるように消化吸収できる。
2-3-2 水分補給をこまめにとる。水分は食べ物と一心同体。ノドが乾き、水分を取りすぎて食べ物が食べられなくなったりしないように、普段から水はノドの乾く前にこまめに少しずつ飲むようにクセを付ける。
2-3-3 姿勢を正し、腹筋を鍛える。腹筋が弱くなると、内臓は下に垂れやすく消化吸収力が悪くなる。また、腹筋が弱いと座っている時や、歩いている時の姿勢も悪くなりその姿勢の悪さが直接プレーや、自分が投げたり、打ったりする時のフォームまで崩してしまう事になる。
2-3-4 朝食をしっかり食べる。朝が一番、食欲旺盛というのが最も望ましい。朝しっかり食べると胃が大きくなる状態になり、その後も一日必要な量のご飯をちゃんと食べる事ができる。日中たくさん食べて、夜寝ている時はお腹を空かせて内臓を休ませる事も大切です。(夜中の食べすぎは筋肉に奈ならず、脂肪になるか内蔵を傷つけるだけの結果に終わる)
以上の4項目をしっかり守り、少しずつ食事量を増やし、「デカイ体」を作ってもらいたい。「メシの食えない選手は勝負にならない」
今までドンブリ1杯しか食べられなかった選手に、3杯も食べさせるのは無理です。1杯プラスおにぎり1個分くらいの量、2個分くらいの量という様に、少しずつ量を増やす。(目安:15歳、16歳の選手で、練習のある日で1日、5〜6敗、練習の無い日で1日、4〜5杯ぐらいのご飯量は最低必要です。)
「ご飯をたくさん食べた」の「たくさん」の量は、決め付けるのではなく、作り上げていくものです。
栄養素の基礎知識
3-1 タンパク質(体の材料になる)
3-1-1 タンパク質は、含まれている食品によって微妙に成分が違う為肉類だけにたよらず、動物性、植物性のタンパク質を取り混ぜて色々な食品からとるのがポイント。
3-1-2 一日三食に分けて取る。一度の取りすぎにはくれぐれも注意。食べ過ぎると内臓に負担がかかる上、体脂肪になりやすく筋肉にはなりにくい。肥満になるだけなので、できるだけ油分の少ないものが良い。
3-1-3 強くて太い筋肉は、十分なトレーニング・休養、そしてタンパク質の補給で実現する。
【タンパク質の多い食品】
牛乳、卵、チーズ、牛モモ肉、豚モモ肉、とりモモ肉
豆腐、納豆、マグロ赤身、あじ、鮭
3-2 糖質(エネルギー源・主食)
3-2-1 グリコーゲンという物質に変化して、肝臓や筋肉に蓄えられる運動エネルギーの源になる。(スタミナがあるか、ないかは体に蓄えられたグリコーゲンの量によって決まる。)
3-2-2 脳を活性化させて「集中力」や「やる気」を生み出す貴重な栄養素。
3-2-3 練習後など糖質とクエン酸(みかん類、酢、梅干など)を一緒に食べると疲労回復が早くなる。
【糖質の多い食品】
米、パン、芋類、麺類
注:米はしっかり食べる事。 一食の目安量はドンブリニ杯弱。これを朝から食べられる体力を作る。
3-3 カルシウム(骨の材料)
3-3-1 特に成長期(まさに今)の選手は毎日、たっぷり食べる事が大切で今の時期にカルシウムをどれだけ食べるかで骨の強さが決まる。
3-3-2 汗に混じって体外に出る栄養素(すぐに不足してしまう)
3-3-3 骨格をしっかり作れば筋肉アップにも役立つ。
【カルシウムの多い食品】
牛乳、チーズ、ヨーグルト、しらす、めざし
豆腐、納豆、小松菜、ひじき、うなぎ
3-4 ミネラル(体の調整役)
3-4-1 鉄分、マグネシウム、カリウムなど三つをひとつのグループとして「ミネラル」という。
3-4-2 ミネラルの必要量は、他の栄養素に比べると少ないのだが、体に吸収されにくく、カルシウム同様、汗に混じって体外に出てしまうという特徴がある。スポーツ選手に貧血が多いのはこの為で、意識して食べる習慣をつけないと直ぐ不足してしまう。
3-4-3 鉄分の不足は貧血気味のバテやすい体になる。
マグネシウムの不足は筋肉のけいれんを起こしやすい。
カリウムの不足は筋肉の脱力感につながる。
【ミネラルの多い食品】
鉄分 レバー、卵黄、あさり、ひじき、ほうれん草
マグネシウム 小豆、大豆、アーモンド、ピーナッ、海藻(わかめ・のり)
カリウム  
注:野菜の一日に取る目安量は300~400gこれに、くだもの100gと海藻約50g(かなりの量)。単一の野菜だけ食べるのではないが、野菜400gというときゅうりだと7~8本。レタスだと丸ごとニ個以上になる。
3-5 ビタミン(体の調整役)
3-5-1 スポーツ選手にはストレスを和らげたり、ケガの回復を促進するビタミンC、糖質の有効利用に役立つビタミンB群の十分な補給が欠かせない。
3-5-2 一定の時間しか体内にとどまっていない為、こまめに食べるのがコツ。
【ビタミンの多い食品】
ビタミンA レバー、牛乳、卵、うなぎ
ビタミンB1 豚肉、豆類、牛乳、うなぎ、かつお
ビタミンB2 レバー、卵黄、納豆、緑黄色野菜、さば、さんま
ビタミンC くだもの、芋類、緑黄色野菜
βカロチン 人参、緑黄色野菜
食品をグループ分けして食べる
4-1 なぜ分けてたべるのか
オフシーズンは体力アップさせる時期、インシーズンは体力を技術に活かして試合に備える時期。このように食事の内容も、練習の目的や体の使い方に合わせて栄養配分を変えるのがベストである。
グループA (毎日食べる食品)
糖質 米、パン(菓子パンはダメ)、麺類、ジャガイモ、長芋、里芋、バナナ など
タンパク質 牛乳、チーズ、卵、豆腐
カルシウム 白身魚、くだもの
グループB (試合後、試合から遠ざかるトレーニング時期)
牛乳、豚肉、ロースハム、まぐろ、赤身魚、人参、かびちゃ、トマト
注:主にタンパク質、βカロチンを多く含む食品
グループC (万全の体調で試合に挑もうという時に多く食べる食品)
ほうれん草、ねぎ、ブロッコリー、チンゲン菜、春菊、シシトウ、ニラ
注:緑色の野菜で、栄養的にはビタミンとミネラルが主体
グループD (無視できない食品)
ひじき、昆布、のり、わかめ、もずく等の海藻とキノコ類
注:少量でも重要なミネラル・食物繊維を多く含んでいるのでグループAと同じように毎日食べる。
グループE (栄養価の低い食品で、食べない様にしよう)
ポテトチップス、油であげたスナック菓子類、ケーキ類、炭酸飲料、インスタント食品
注:カロリーばかり高くて栄養価が低い。
まとめ1 基本はグループA,B,Cの3グループ+グループD。
まとめ2 食品のグループによる食事の工夫は、例えばグループA,Bとしたら、それだけを集中的に食べるのではなく、普段よりもグループA,Bの食品を多めに食べるという意味。
まとめ3 グループEを除くと不必要な食品はないのだから、グループA,B,C,Dをうまく組合せて食べる。
まとめ4 試合前日と試合後の様に明らかに体の使い方が違う場合は、組み合わせの割合を変えた方が良いコンディションを作れる。
グループ分けの食事パターン
5-1 朝食
5-1-1 米、食パン、麺類などでエネルギー源の糖質の補給
5-1-2 卵、豆腐、魚などでタンパク質とカルシウムの補給
5-1-3 野菜、くだものなどでビタミンとミネラルの補給
5-1-4 これに牛乳かヨーグルト、汁物を加えればほぼ完璧
注:
ウオーミングアップは朝食から始まっている。それに野球選手にとって朝ごはんは、まず、体のエネルギー源であると同時に脳のエネルギー源。常に考え、脳細胞を働かせていなければ野球はできない。だから、朝食をおろそかにせず、練習や試合の無い普段の日から常に朝食をしっかり取ることを心がけよう。
5-2 試合前日と試合当日の食事
5-2-1 試合前日の食事
グループAとCを中心とする。
グループAに入っている米・パン・麺類など糖質を多めに食べて試合でのエネルギーを確保する。
グループAにあわせて酢の物や梅干・みかん・オレンジなど酸っぱい食べ物でクエン酸を多く取るとよい。
油っこい物や生ものは避ける。
5-2-2 試合当日の食事
試合当日の朝食もほぼ前日のパターンにする。
朝食は試合開始三時間前までを目処として済ませておく。
試合開始ニ時間〜一時間前までに小さめのおにぎり・パン・くだもの・ヨーグルトなど(食べ慣れているもの)消化の良いグループAの食べ物を軽く食べておくと良い。
5-3 試合後の食事
5-3-1 試合が終わった後の食事はグループAとBが中心。
5-3-2 糖質とタンパク質(クエン酸も含む)で消耗したエネルギーと疲労した筋肉の回復を早める。
5-3-3 ビフテキやトンカツは「敵に勝つ」為ではなく「勝った後」に食べる様にしよう。(試合前日の夕食で食べるのは間違い。)
5-4 試合連日続く場合の食事
5-4-1 試合が連日続く場合は、試合後といっても肉などを豪勢に食べるわけにはいかず、その日の疲れを早く回復させ、翌日の試合に向けエネルギーを補給することが肝心である。
5-4-2 試合前日と同じくグループAとCを中心に食べ、やはりクエン酸もたっぷり食べる。
5-4-3 ニラ・ニンニク・長芋・納豆・うなぎ・なめこ・オクラ・レンコン・ブロッコリー・グリーンアスパラ・ショウガなどを多目に食べることも大切なポイントである。
5-5 筋肉強化期(オフシーズン、冬場のトレーニング時期)の食事
5-5-1 オフシーズンの筋力強化期はグループAとBを中心とした食事がトレーニング効果を上げる。
5-5-2 特に夕食時にタンパク質を多めに食べるのが良い。
5-5-3 トレーニングで筋肉の組織が傷つけられ、その補修にタンパク質が超回復に貢献する。
注:
脂肪分に注意。
夕食のタンパク質が良いといっても食べ過ぎは良くないし、食べ方も工夫する必要がある。脂の多い肉や魚、また油やバターをたくさん使うメニューは筋肉強化より肥満の原因となる。
だから、肉や魚なら脂身の少ない赤身を多くしてフライやカツよりも「煮る」「焼く」といった調理法も取り入れ、工夫した方が良い。
5-6 夏期の食事
5-6-1 暑い夏場は食欲不振から麺類などの糖質に偏る傾向がある。糖質自体はエネルギー源として有効なのだが、そればかりだと糖質の消化に使われるビタミンB1の不足を招き、夏バテになってしまう。がんばってバランス良く食べよう。(食べられる体力があれば大丈夫)
5-6-2 ビタミンB1の多いニラ・ニンニク・ネギを多目に食べる事が大切である。
野球選手のおやつ
6-1 野球選手のおやつは「捕食」と考える。(お菓子はダメ)
6-1-1 栄養のないグループEの食品で空腹を満たすのは良くないがおやつは三度の食事で足りないものを補う「捕食」でなくてはならない。
6-1-2 栄養価の高いおやつ(捕食)なら積極的に食べたほうが良い。
6-1-3 砂糖や脂肪の多い食品は避けて、練習前、練習後、試合前などに軽く食べるのが良い。
6-2 野球選手の捕食になる食品
6-2-1 おにぎり
手軽に取れるエネルギー源。甘くなく、脂肪もほとんど含まず、満腹感もある。具は、梅干、しそ、鮭などが良い。
6-2-2 巻き寿司
ミネラル、ビタミンが含まれ疲労回復に有効な酢も入っている。また、おにぎり同様、のりなどの栄養価も見逃せない。
6-2-3 サンドイッチ
おにぎりなどのご飯物に比べるとバター・マーガリンなどの脂肪分を多く含むため高カロリー。しかし、ハム・チーズ・卵などのタンパク質、それに野菜が多ければビタミン類の栄養価が期待できるので菓子パンより、利用価値は比較にならないほど大きい。
6-2-4 中華まん(肉まん・ピザまん・カレーまん)
冬の定番で温かさが消化を助ける。皮は脂肪の少ないでんぷん質で具はタンパク質やミネラルを少しではあるが摂る事ができる。
6-2-5 バナナ
糖質の形が試合前に摂るのに適している。また、カリウムを豊富に含み、食べやすく手軽であることがメリット。
6-2-6 柑橘類
疲労回復。エネルギー生成に欠かせないクエン酸・ビタミンCを豊富に含む。オレンジやはっさくなど、少々皮の厚い物でも面倒くさがらずにしっかり食べてほしい。
6-2-7 カステラ
高糖質食品。消化も良く、運動前の捕食に適している。ただし、高カロリーなので必要以上の食べ過ぎに注意。
6-2-8 カップヨーグルト
タンパク質・カルシウムを多く含む。なるべく甘さが少ない種類が良い。
6-2-9 角チーズ
忘れがちだが、手軽に取れる貴重なカルシウム源。
6-2-10 牛乳
タンパク質・カルシウム源として一日400〜600mlは取りたい。
ただし、のみすぎは乳脂肪の取りすぎになるので注意。また、コーヒー牛乳やフルーツ牛乳などは牛乳の代わりにはならない。
6-2-11 100%オレンジジュース
クエン酸補給に有効だが、糖分は清涼飲料水と同様に含まれるので100%だからといってのみすぎには注意。
6-3 練習前の捕食の取り方
6-3-1 練習前の捕食のポイントは、まず消化の良い糖質プラス水分を中心に取る事。
6-3-2 サンドイッチ・おにぎりなどの軽食は一時間〜ニ時間くらい前までに食べる。それ以上、時間の無い時は量を減らし、よくかんで食べること。
6-3-3 消化には個人差があるので、自分なりの捕食の量と形を考える事が大切。
6-4 練習後の捕食の取り方
6-4-1 運動後の体は、蓄えていたエネルギーやタンパク質などの栄養素を使い減らしてしまった状態にあり、これをいかに早く補充するかが疲労回復のポイントになる。
6-4-2 運動後はなるべく早く糖質・タンパク質・ビタミン・ミネラル・クエン酸を補給し、一番望ましいのは運動後、一時間以内にとることである。
6-4-3 運動後の捕食は、糖質プラスタンパク質中心に取ること。
注:
練習後には家に帰って夕食を取るのだから、くれぐれも捕食は食べ過ぎないよう注意する事。(捕食のせいで夕食の量が減ってはダメ)
捕食の目安は350キロカロリーまで
350kcal以下の食べ合わせ
肉まん(1個)+牛乳(200ml) 350kcal
しゃけおにぎり(1個)+100%オレンジジュース 250kcal
バナナ(1本)+ドリンクヨーグルト(200ml) 250kcal
巻き寿司(梅じそ1本)+ゆで卵(1個)+お茶 220kcal
レーズンパン+角チーズ+100%グレープフルーツジュース 300kcal